犬と暮らしていると、 理由はうまく説明できないけれど、 「なんだか、あたたかい」と感じる瞬間があります。
玄関で、しっぽを振りながら駆け寄ってくれるあの瞬間。 並んで歩く夕方の道。 子どもが声をあげて笑う横で、静かに見守る姿。
そんな何気ない日常のなかに、 小さな幸福が積み重なっているように感じることがあります。
けれど、ふと考えることもあります。
この幸福感は、気のせいなのでしょうか。 それとも、研究でも何か示されていることがあるのでしょうか。
近年、「ペットと幸福度」の関係は世界中で研究されています。
幸福度とペットの関係について
いくつかの研究では、ペットを飼っている人は 生活満足度や精神的安定感が高い傾向にあると報告されています。
アメリカの大学で行われた心理学の研究では、 ペットを飼っている人は自尊心が高く、孤独感が低い傾向にあり、 ペットが人間の社会的サポートを補完する存在として 心理的ウェルビーイングに寄与する可能性が示されました。
また、日本の縦断データを用いた研究では、 幼児期にペットを飼っていた家庭の子どもは、 その後の感情表現が豊かになる傾向があるという分析も報告されています。
エコチル調査(子どもの健康と環境に関する全国調査)のデータを用いた研究でも、 家族でワンちゃんを飼っていることが、 子どもの早期発達と関連している可能性が示唆されています。
もちろん、すべての研究が同じ結論を出しているわけではありません。 愛着の強さや生活環境によっては、 明確な関連が見られないという報告もあります。
100件以上の研究をまとめた近年のレビューでも、 結果は一様ではなく、ペットとの関わりが良い影響をもたらす場合もあれば、 はっきりとした違いが見られない場合もあることが報告されています。 ただし、子どもを対象とした研究では、ペットとの関わりが精神的な健康と良い方向で関連する傾向が見られています。
それでも、「ワンちゃんと暮らすことが幸福度と何らかの関係を持つ可能性がある」という点では、多くの研究が共通しています。
なぜ、心がやわらぐのでしょうか
ひとつは「無条件の受容」と言われています。
ワンちゃんは評価をしません。 うまくできなかった日も、疲れている日も、 ただ変わらずそばにいてくれます。
その存在が、安心感につながっているのではないかと考えられています。
もうひとつは、「家族の結びつき」です。
日本の研究では、 ペットを通じて家族の会話や共同活動が増えることが、 幸福度と関連している可能性が示されています。
散歩という習慣。 一緒に世話をする時間。 自然と共有される役割。
それらが、家族の関係をゆるやかに支えているのかもしれません。
子どもにとっての幸福感
子どもにとってワンちゃんは、 遊び相手であり、ときにきょうだいのような存在でもあります。
言葉を超えたやりとり。 ただ隣に座る静かな時間。
幼少期にペットと暮らすことが、 情緒の安定や感情表現と関連している可能性を示す研究もあります。
また、麻布大学や群馬大学などの研究チームは、 犬を飼う家庭の子どもでは消化管の常在菌の一部が変化しており、 それが社会性の向上に影響している可能性があることを発見しています。
もちろん、ワンちゃんがいれば必ず幸せになれる、という単純な話ではありません。
けれど、 子どもがワンちゃんに話しかける姿や、 そっと抱きしめる様子を見ると、
その時間が、心のどこかをやわらかくしているように感じることがあります。
幸福度は、数値だけでは測れないもの
幸福度はアンケートや尺度で測られます。
けれど、本当の意味での「幸せ」は、 もっと静かなものなのかもしれません。
夕方、みんなで並んで歩く帰り道。 子どもとワンちゃんが同じ目線で笑い合う瞬間。
そのひとつひとつが、 あとから振り返ったときに、 「あの時間は、幸せだったな」と思えるなら、それだけで 十分に意味のある日々なのかもしれません。
